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1750年にヨハン・セバスチャン・バッハが死の床に就いていた時、彼の書架にはどんな書物があったでしょうか。


 彼の遺産目録にはそうした書物の一覧がありますが、その大半は散逸してしまいました。
 しかし、幸運なことに、バッハにとって最も大切な書物であった三巻本の聖書はアメリカ・セントルイスの或る図書館に現存することが分かりました。
 この聖書はバッハ自筆の書き込みがある、彼の生涯に関する最重要資料の一つです。この度、本書のファクシミリ版が出版される運びとなりました。

専門家たちの言葉

デヴィット・O・バーガー

(バッハ・カロフ聖書を所蔵するコンコルディア神学校・名誉司書)

 バッハ・カロフ聖書は、彼の死の床で遺言書作成のためにリストアップされた蔵書の中で唯一現存の確認ができている書籍です。本書は彼がどのように聖書を利用したかを理解するためのかけがえのない扉を開いてくれます。バッハは、原文に欠けている章句を補い、本文に下線を引いたり、誤植を訂正して、注を付けるなど、明らかに自分の聖書に良く親しんでいました。ファン・ヴェイネン書店は、この音楽的・神学的な秘蔵の書物を、様々な領域のバッハ愛好家や研究者や、ファクシミリ版のコレクター諸氏の手に届くものにしてくれました。コンコルディア神学校は、同書肆との共同でこの価値の高い書物を世界中の皆さんと分かち合えるようにしたことを心から喜んでおります。

 

徳善 義和

(ルーテル学院大学・日本ルーテル神学校名誉教授)

「祈る思いの音楽」
バッハはこの『カロフ聖書』を1733年に入手して、サインした。歴代誌までの第1巻に多くの書き込みが見られるが、その関心は「礼拝とは」、「音楽とは」なにかに集中していたようだ。歴代誌 下(5:13)に付した書き込み「祈る思いの音楽には常に神がその恵みをもって現在なさる」には、晩年の彼の教会音楽、いや音楽全体への思いが込められている。その意味でここでの書き込み全体は晩年の彼の音楽全般を理解する鍵のひとつとなろう。

 

ニコラウス・アーノンクール

(古楽器によるバッハの全カンタータを最初に録音した指揮者)

「バッハの聖書は全ての演奏家、愛好家にとって興味深い資料です。彼は聖書をどう読んだのでしょうか?彼は余白に何を書いたのでしょうか?この素晴らしい企画を心から祝福します」

 

 

 

トン・コープマン

(ライデン大学教授、指揮者、オルガン/ハープシコード奏者)

「『バッハ・カロフ聖書』はバッハが聖書に付したコメントが見られるかけがえのない資料です。有名ですがそれを目にしたのはごく僅かな人々に限られていました。その一人としてこのファクシミリ版の出版を大いに歓迎します」

 

 

 

ヨス・ファン・フェルドホーフェン

(オランダバッハ協会芸術監督)

「……例えば歴史的に貴重なオルガンのようなバッハその人が実際に見聞きしたであろう事物を見聞きしたり、彼が歩いたに違いない街並みを歩いてみたりすることは、非常に好奇心がそそられることです。この『バッハ・カロフ聖書』はバッハその人がたびたび熟読したに違いない書物で、そこに折に触れて彼は自分の思いの丈を書きつけていたのでした。本書を通じて、私たちはほんの少しの間バッハに寄り添うことができるのです。」

 

クリストフ・ヴォルフ

(ハーヴァード大学音楽教授、バッハ文書館長(ライプチッヒ))

「バッハは、宗教音楽のテクストを準備する際に、いつも聖書を読むことから始めました。『バッハ・カロフ聖書』のファクシミリ版はそうしたバッハの創作過程を理解する上で大いに参考になるでしょう。これでバッハが常用していたルター訳聖書に権威ある神学的注釈が付いた三巻本セットを容易に研究できるようになります。この三巻本を研究することによってバッハの教会音楽におけるテクストと音楽の密接な関係がより良く、より深く理解できるようになるでしょう」

 

グスタフ・レオンハルト(1928-2012)

(ニコラウス・アーノンクールと共に、古楽器によるバッハの全カンタータを最初に録音した指揮者)

「バッハは聖書を深く理解し、味わい、そのテクスト慎重に検討しました。彼は偉大です。バッハへの賛美はさらに高まるばかりです。どのように、なぜ、といった問いには答えられません。それは大きな秘密なのです」

 


鈴木雅明

(バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督)

「数年前、私は『バッハ・カロフ聖書』を日本で展示しようとしました。この企画は実現しませんでしたが、ファクシミリ版を通して、このバッハの類のない資料を研究することが、日本でも世界中のどこでもできるようになります。」

 

 


アルバート・クレメント

(オルガン奏者、ユトレヒト大学教授、バッハの音楽理論研究家)

「バッハ愛用の注釈書付カロフ聖書の発見は疑いなく20世紀最大のバッハにまつわる発見です。今やこの貴重な発見を開示して、重要な情報を広くアクセス可能にすべき時です」