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内容詳細

神の恵みに応える信仰生活
キリスト者としての成長と完成を目指す伝統的な「修徳」はどのように実践されてきたのか? それらは現代的な「霊性」へとどのように変化したのか? 神の恵みを体験するキリスト教的霊性について、カトリックにおける修徳・修行論を出発点として多面的に考察し、その今日的な意味を説く。

[目次より]
 序論 「修徳・修行論」から「霊性神学」へ
第1部 修徳・修行論の形成
 第1章 完徳への旅路/ 第2章 霊的婚姻/ 第3章 イエスの生涯の黙想・模倣/ 第4章 聖人伝
第2部 修徳・修行論から霊性の神学へ
 第1章 第二ヴァティカン公会議前後の信仰生活/ 第2章 第二ヴァティカン公会議/ 第3章 現代思潮からの影響/ 第4章 霊性とは何か
第3部 キリスト教的霊性
 第1章 神学の新しい展開/ 第2章 キリスト教的霊性
 結びに代えて

著者紹介
小高 毅(おだか・たけし)
1942年生まれ。1975年、カトリック司祭に叙階。1984年3月、上智大学大学院博士課程修了、神学博士号取得。現在、聖アントニオ神学院教授(組織神学・教父学)。
[著書]『よくわかるカトリック』(教文館、2002)など、ほか多数。
[訳書]J.メイエンドルフ『東方キリスト教思想におけるキリスト』(教文館、1995)など、ほか多数。
[編書]『原典古代キリスト教思想史』(1‐3、教文館、1999‐2001)、『シリーズ・世界の説教 古代教会の説教』(教文館、2012)

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書評

初心者向けに信仰生活の姿勢を示す!

阿部仲麻呂

 謹厳なる身体的犠牲の努力から全幅の信頼に満ちた委ねの軽やかさへと成熟する共同体の姿勢。二千年間にわたってキリストの福音を引き継いで生きるキリスト者の信仰生活の軌跡は、ローマ・カトリック教会における「霊性」理解を参照するときに明確になる。そのことを、本書を通して著者が如実に示す。

 とくに第二ヴァティカン公会議以前の厳しい規律と模範的で犠牲的な禁欲姿勢を堅持する「修徳・修行」観が公会議以降の「霊性」理解へと洗練されてゆく際に、聖書の主体的な熟読と黙想が深められ、すべてのキリスト者の聖性の共同体的な涵養の重要性が再確認された。神と親しく生きる道(聖性)は特殊な修行を積んだ者によって独占されるべきではなく、むしろ各自の生活の現場で丁寧に生きることを通して実現してゆく。しかし、もちろん厳格な修行の意味が失われたわけではない。むしろ、新たな表現の仕方が認められたのである。

 他ならぬ著者自身が第二ヴァティカン公会議以前から公会議以降の転換期を身をもって生き抜いて今日に至っている。経験に裏打ちされた教会共同体の信仰生活態度の変化への感慨がつづられていることが本書の最大の魅力である。

 わざわざ「入門」と銘打つように、本書は、あくまでも初心者向けにローマ・カトリック教会の信仰生活の姿勢を解説する色調を帯びる。それゆえ各項目の本文は簡潔明瞭な筆致を保ち、敢えて専門的な記述を意図的に採らない。そして、重要な霊性の大家の言述を直に引用して、余計な解説を一切加えない。それらの点について、評者は一瞬だけ、物足りなさと不満をいだいた次第である。

 しかし、よくよく考えてみれば、聖書学の素養という土台のうえに立脚する教父学や教義神学の専門的学識に支えられて半世紀近くの歳月を神学生教育に徹してきた著者が、安易な記述の仕方に決して平気でいられるはずがないということもまた容易に察しがつく。神学の大御所が著書を執筆するにあたって、本当は一層詳しい記述を目指したかったはずだ、と推測されるからである。

 しかも、「霊性神学」とは、絶えず全身全霊で神と交流すべく努める体当たりの生き方を伴う真実探究の道行きなのであるから、衒学的な長文の解説で読者を煙に巻くのとは真逆の書き方をするのがふさわしい。各時代の霊性の大家の日記や書簡からの言葉を直に引用しつつ、敢えて手を加えないで読者に味わわせつつ祈りのうちに体感させる手法を著者は目指したのではあるまいか。敬虔な黙想を伴う祈りの体感的な「しじま」を生み出す手鏡として本書を鞄に忍ばせておくことで、日々の通勤のひとときが霊的要素を帯びてくる。

 本書は三部構成で成り立つ。つまり、「第一部 修徳・修行論の形成」と「第二部 修徳・修行論から霊性の神学へ」と「第三部 キリスト教的霊性」という三つの部分が連続しており、全体として第二ヴァティカン公会議前後のキリスト者の生き方の転換を冷静に眺めて評価する意図に貫かれている。その際に、単に現代の転換に焦点を当てるにとどまらず、古代の教父オリゲネスから始まって現代の教皇ヨハネ・パウロ二世による『奉献生活』に至る信仰生活の要点が順序よく整理され、万事が歴史的に意味をもつ有機体として提示される。

 第一部は四章構成である(「第一章 完徳への旅路」「第二章 霊的婚姻」「第三章 イエスの生涯の黙想・模倣」「第四章 聖人伝」)。修行を積み重ねつつ謹厳に生きる信仰者の姿があぶり出される。第二部も四章構成である(「第一章 第二ヴァティカン公会議前後の信仰生活」「第二章 第二ヴァティカン公会議」「第三章 現代思潮からの影響」「第四章 霊性とは何か」)。伸びやかに自発性を発揮しながら前進する信仰者の可能性が述べられる。第三部は二章構成である(「第一章 神学の新しい展開」「第二章 キリスト教的霊性」)。キリストに集中しつつ、三位一体論を豊かに展開し、隣に寄り添う神の慈愛としての恩恵の確認をする現代の教会共同体の方向性が読者の心を力強く導く。

 (あべ・なかまろ=日本カトリック神学会理事)

 『本のひろば』(2016年4月号)より